同じ事柄でも見ている物が違えば結果は大きく変わります
昨日過去に納品したお客様のご友人繋がりで建築士の方が工場へ見学にお越しくださいました。先生はレンガを使ったサウナストーブを2基製作するも燃焼に満足がいかなかったので弊社へご相談にお越し下さったと言う事です。
そして色々と話を聞くうちに私が注視する場所と今まで先生が見ていた場所は同じ薪を使った暖房器具と言えども全く異なると強く感じたのです。
結論から申し上げますと私が第一に考えるのは薪をしっかりと燃焼させ木から得られる熱エネルギーをしっかりと取り出す事です。イラストで説明すればなるべく赤い面積を増やして青い面積を削減する事に多くの時間を費やしてきました。
しかし、この作業は多くの実験と検証、そして改良のサイクルを回さなくてはならないし一見すると当たり前の様に燃焼するので何が凄いか素人には判別できません。
では一部のマニア向けの偏ったトピックかと言えば全くそうでは無く、上記の赤面積が多いモデル程普段使い込むほどに便利だと感じます。
2重煙突で施工するのも上記思想に則った部品選択であり、シングルで施工するとどんなに高級モデルであっても2重煙突で施工した場合と比較すれば性能は言葉にしなくても一目瞭然で異なります。
では燃焼が気にならない多くの方々はどこに視線が向いているのかと言えば「意匠と熱利用です」
先ずは意匠から。
見た目のデザインを重視することは大切ですが、見た目がハイソでも熱の発生という中身が伴っていなかったら注力すべき資源配分を間違えているのでは無いかと私は考えます。例えるなら蛇口から熱量が降り注ぐ外観の優れたバスタブがストーブ本体だとすれば、小さな蛇口からチョロチョロと熱が本体へ降り注ぎ熱が飽和して溢れる状態です。
そして熱利用。
しっかりとした燃焼が伴ってこその熱利用ですが、木質ガスである煙を大量に放出しながらレンガなどで作った巨大な蓄熱体へ熱をため込もうとすると多くの時間と薪を浪費する必要に迫られます。
そして本体からあふれた熱がお部屋を暖めて部屋全体が蓄熱するにはどれだけの時間を費やすのか想像もつきません。
私は過去に何度か薪ストーブのイベントにも参加しましたが、巡行運転でも沢山の煙を排出するストーブは何かしらの要素がアンバランスになっているハズなのに、上記の熱利用や意匠へ意識が向いている事により違和感を認知できていない事例をいくつか目撃しました。
個人的な感想になりますが、熱利用はyoutubeやSNSで色々なバージョンが取り上げられており視覚的にも取り組みやすいトピックの上位に入ると思うし実際にやって見ても面白いと思うけど私はしっかり薪を燃やす事が最も大切だと考える派なので複雑な熱利用には懐疑的です。
なぜならしっかり燃やす事が出来る状態と言うのは大きな熱を発生させる蛇口を備えている事になるので昇温も早いし本体からあふれ出る熱量も小さい蛇口と比較して豊富に利用できるので結局ユーザーフレンドリーな機種になると考えているからです。
どうすれば燃焼効率を高める事が出来るかと言えば復唱になるのですが「条件の異なる試作品を用意して何度も実験を行い、どの要素が効いてくるのか検出する」この一言に尽きます。 市販品メーカーが膨大な時間を費やして販売している既製品ですら、マイナーチェンジなどを実施して更なるブラッシュアップを行う様に表面には見えないところに資源を投入しているのです。しかし、その効果は実際に使ってみないと分からないので一般消費者には判断が困難な課題なのは事実です。
そして私も含め消費者は製品の根底に内包されている製作者のこだわりを見抜くことは困難であり、そんなものより表面的な意匠や広告で意思決定するのであれば時間とコストを必要とする性能開発よりもマーケティングを優先する方がビジネスとして合理的な選択なのかも知れないとブログを書きながら感じました。
これもあくまで私の好みを述べているだけなので決して正しい事ではなく、人それぞれ興味が向く方向は異なるので色んな形が有っても良いと思ってます。しかし、相談に来られた先生はご自身の設計に疑問を抱き燃焼効率向上のヒントを求めて遠方からお越し下さった行動力が私の心を動かしました。
炎が良く見えるガラスを維持したければエアカーテンが必須だし、ガラス面積をむやみに多きくしてバッフルより上に設置すれば速攻で曇ってしまうし、エアの導入経路や炎の滞留など無数にある制約の中から最適を探す作業は経験の蓄積が無ければ他者を説明する合理的な理由を述べる事は出来ないと思います。
私自身も鉄のストーブにレンガを積んで蓄熱型へ改良するまでは蓄熱型の素晴らしさが分かりませんでした。薪ストーブって選ぶときは頭で考えますが、使って感じる物なので経験値を積む事が非常に大切であり、自分の意識が向いている要素を具象化する製品だと強く感じました。