薪ストーブ、煙の逆流を解決する
冷え切ったロケットストーブの焚き付けには乗り越えなければならない課題「煙の逆流問題」が存在します。
逆流の少ないモデルもあると思いますが、少なくとも僕のストーブは焚き付けの時に煙の逆流が起こりやすかったです。
商品の弱点を隠して、焚き付けの弱点は慣れとコツで乗り切って下さいとお客様の元へ納品するなんて絶対に出来ないので正直にお伝えします。
せっかく僕の製品を気に入りお買い上げ頂いても、ご自宅で焚き付けの使いにくさをお客様が感じる様な事が有っては駄目です。
お客様に質問された時に「こんな物ですよ」とか「馴れると上手になりますから」などと言う戯れ言で言い逃れすることなんて出来ないので焚き付けの不安定は、小骨がのどに刺さるが如く僕の心に引っかかり心の底から自信を持って販売する事が出来なかった。
弱点を克服すべく簡単な実験からバージョンアップを重ねて試行を重ねる事約1年、やっと煙の逆流問題を克服することが出来ました。
もうこれで煙が逆流することは解決です。 あとは使い方のレクチャーなので、販売者のモラルを維持するだけです。
熱効率の良さが焚き付けのスタートを邪魔する
一旦上昇した暖気を180度方向転換して下降させ、更に煙突から煙を出す構造が無駄なく熱をお部屋に放出するコア技術なんだけど
焚き付けの弱い炎を冷え切った本体に接触させる事で空気が冷めてしまい、煙突内部に滞留した冷たい空気を押し上げる上昇気流のパワーが無くなってしまいます。
こうなると煙突に抜けることが出来ない煙は抵抗の少ない本体の隙間や空気吸入口から噴出する事になります。
煙突の排気に熱回収や、長い横引き、シングル煙突などを施工すると加速度的に焚き付けが難しくなって行きます。
私の作るサイクロンストーブもこの呪縛から逃れる事が出来ず、開発してからずっと煙逆流問題の解決方法を探していました。
一旦暖まれば自信をもって高性能だと言い切れるのですが、焚き付けがちょっと難しいです・・・ごにょごにょと言葉尻を濁してしまう自分がもどかしかったです。
普通の薪ストーブはどうかと言うと、焚き付けの煙逆流が起こる事は有りますが、上手く点火すれば床面から天井へ直線的に上昇する暖気の力が強いので煙の逆流は起こりにくい。
バーナーで煙突を暖め作戦
一番最初のパターンは、煙突にバーナーを突っ込んで直接煙突内部を暖める穴を開けてみました。
この方法は僕が考えたんじゃ無く、数人の方から雑談の中でアドバイスを貰った事を実験しました。
そして煙突直径に比べ小さなバーナーですが効果は思った以上にあって、煙の逆流問題は起こらなくなりました。
焚き付けが終われば、丸い栓を軽く打ち込んで扉の代わりにしていたのですが、栓の脱着が面倒なのと、もしかして就寝中栓が外れて一酸化炭素中毒にでもなってしまうと大事なので扉を追加しました。
暗闇の中で一筋の光が差し込む様にその後、焚き付け問題を解決出来る可能性が高いバーナー予熱方法を深掘りして行きました。
扉の追加
基本的に重りで扉が閉まった状態で、使う時だけ扉を押し上げる構造にしました。
写真は製作途中の状態で、このあと扉が90度以上開かない様に加工して、バーナーを引き抜くと自然に扉が閉じる様にしました。
この改造で扉の開閉を忘れることが無くなり、使う時にバーナーを突っ込んで予熱する工程をデフォルトとしていました。
煙道火災の恐れ
直接バーナーで煙突内部を暖めると、煙突内部にタールやススが溜まっている状態では放火しているのと同じなので煙道火災の恐れが有ります。
自分で放火しちゃったら洒落では済まないので、これまた対策を考えます。
何でもシンプルが一番なので、パイプを追加して暖気だけ煙突に送る様にすれば良いじゃ無いのと実験してこの方法で暫く運用していました。
フューエルセーフ
安全対策は最優先事項です。エラーが起こった時に安全側へ倒れる様に何点か改良しました。
先ずはパイプを使って暖機して下さいと言っても、めんどくさがり屋の僕だったら絶対にバーナーを直接煙突に差し込むのでバーナーが直接刺さらない方法を採用しました。
煙突への差し込み口をバーナーの直径より小さなパイプにして、物理的にバーナーを差し込めない様にして、必ずパイプを使う構造にしました。
そして扉が閉まらずに一酸化炭素中毒になる事が怖いので、スプリングで扉が自動で閉まる様に改良しました。
これで一安心かと思いきや、パイプが軍手を使っても持てなくなる位、凄く熱くなるので対策を考えなければ行けません。
ホームセンターで売っている保温を巻いて実験すると結果は焦げてしまいボツ。
それじゃ、もっと耐熱性が高い物を使えば良いかと思ってバイクマフラーなんかに巻き付ける耐熱布を巻き付けて実験。
綺麗に巻き付けるのが難しいのと、何とも言えない不快な匂いが発生、そして無いよりマシだけどやっぱり熱い。
バーナーを使った予熱を止める
ここまで色々試したけれど、何だか心に響きません。
本当に良い物を閃いた時は、これしか無い!と腹に声が響くのですがバーナー予熱は何だか気に入りません。
問題を解決しようと、課題を改良して行く中でシステムとしては安全になったかも知れないけれど、とにかく面倒だ。
点火の度に後ろに回り込み、棒を差し込んでバーナーで予熱、そして棒はすっげー熱い。
スタートの煙逆流は解決出来るかも知れないけれど利便性が疎かになっている所が気にくわない。
直感的にこの方法はダサいと判断した僕はここまで深掘りしたバーナー予熱を止める事にしました。
今までの実験を無駄にして棄ててしまうのは勿体ないかも知れないけれど、駄目だと感じる直感力には自信があるので迷いは有りません。
そして解決を発見する
バーナーを止めて振り出しに戻りましたが、実験を重ねることで沢山の知見を得ることが出来ました。
そしてアイデアの神様が降臨して問題解決のキラーコンセプトをヒラメキました。
良いアイデアって考えるんじゃ無くて、フッと沸き上がってくる様にイメージが浮かんで来る。
そんな場合は大体成功するので、テンションも自然に上がります。
最も肝心なのはスタートの上昇気流を煙突へ通過させれば良いので
立ち上がりは従来型の薪ストーブと同じ排煙経路で暖気を行い、本体が暖まるとロケットストーブにする!
イメージが思い浮かんだ後は、早速部品を作り実験です。
そして去年作ったロケストに装着して早速実験しました。
今まで灯油を使い、煙突をバーナーで予熱して何とか点火していたのが嘘の様に、木だけで順調に点火できます。
まとめ
問題を解決するまで本当に長い道のりでした。
今回は成功までの直線ルートなんてなくて、長い迂回ルートを取る事が成功への唯一の道だったと思います。
この様に、製品への違和感を敏感に検知して改善して行く事がものつくりの醍醐味でしょうか。
本業のエンジニアリングでは、こんな感じの試行錯誤をもっと大規模に高回転で実行しています。
やっと心の底から良い物を作っていると思える様になって一安心。