大きいボディのヒミエルストーブを作れるのか?
ヒミエルストーブの本体を大きくしてガラス面積も拡大した物を作れるのでしょうかとお問い合わせ頂きました。
結論から申しまして、不可能では無いですが製品の性能を保証する事は出来ません。
もっと平易に言えば、現在販売している製品とは全く性能がかけ離れた不満が募るストーブになると想像します。
あくまで想像なので実際に作って見ないと分かりませんが、過去の経験では試作品を元に気の遠くなる改造を施して市販しているので初めて作る製品をそのまま使用するなんて怖くて出来ません。
本体を大きくする弊害
先ずは本体のボディ拡大化による弊害。
ヒミエルストーブは2重構造になっており、燃焼によって発生した熱を本体で放熱する事でお部屋を沢山暖める事を可能にしています。
では、燃焼室を現状のまま本体だけを大きくすればどうなるでしょう?
答えは放熱面積が増えて排気温度が低くなります。
せっかく燃焼によって作った暖気を沢山お部屋に放出出来るからお得じゃ無いの?と思ってしまうのですが、さにあらず放熱量が多いと煙突内部の結露により木酢液が大量発生します。
木酢液は強酸性なのでアルカリ性のコンクリートに穴を開け屋根を痛めてしまう厄介者です。壁出しを選んで木酢液の回収を狙っているのであれば問題無いですが普段使いでは厄介者以外の何物でもないと考えています。
なので、僕は巡行運転時の排気温度がストーブ出口から約1Mの場所で200度位になる様に排気口の位置や外殻面積を調整しています。
こんなの説明しないと見落としてしまう場所だけど、部品が付いている位置にもちゃんと意味が有るのです。
燃焼室の拡大は可能なのか?
これはヒートライザーの断面積と長さによって燃焼できる木質ガスの量がおおよそ決定されるので一概に何が良いのか判断できません。
ガソリンエンジンのピストン径だけで出力を論じる事が出来ない様に、薪ストーブは吸気から煙突の排気までが一体となった燃焼システムで、全体のバランスを考慮しながら構築するものなので一部分だけ改造すれば望む性能を得る事が出来ません。
例えば燃焼室を拡大すると吸気量が増えるので空気の吸い込み口の拡大が必須になるけど、どの位の大きさが良いかはある程度事前の予想を反映した実験を行わないと断定できません。
そしてヒートライザーの断面積拡大は前述したので飛ばし、燃焼室と本体との隙間を僕は膨張室と呼んでいるのだけど膨張室の大きさが性能に大きく関係するのでこれまた実験で検証しないと最適な大きさが不明。
ガラス面積を大きくしても、エアカーテンが理想的な働きをするかも不明と何一つ確証をもてる前提条件が有りません。
経験の蓄積が武器だと気づく
今現在お客様に納品しているストーブは忘れるくらい実験を検証を繰り返し、僕が納得のゆく性能を発揮できる絶妙のバランスの上に成り立っているので新たな製品を作る場合は過去と同じ手法をトレースするしか製品を作り込む方法は存在しません。
では1個だけの特注品の為にどれだけ時間とコストを投入できるかと言うと現実問題「不可能」では無いかと考えます。僕はモックで原寸大の模型を作り、全体図を作図して部品図を作り、部品の組み付け不具合を次の製造で改善しならがら性能のチェックも行い図面に製造ノウハウを落とし込んで行くのです。
親会社から図面を貰い加工を行っているのではなく自分で商品開発を行って何気ない図面の中に品質と性能を詰め込む作業は口で言うほど簡単では無いし初期の頃は精神的にも非常に摩耗しました。
勿論質問される方はその様な事など一切知らず、要望を質問して下さっているだけに過ぎないと思うのですが、その様なご要望を叶えるのはかなり困難だと言うのが僕の立ち位置です。