鉄製のロケットストーブは寿命設計が難しい
6年間お客様の元で、どちらかと言えばかなり過酷な環境で使用されたSD01をじっくりと観察し、金属素材でロケットストーブを作成する時に気を付けておいた方が良いポイントがいくつか存在する事に気付いた。
一番大切な事を真っ先に挙げると
「金属素材は長期間、高温に耐える事が出来ない」です。
熱により摩耗劣化する事を念頭に設計を行うことがベター。
一番コスト的に有利なのは鉄の角パイプを利用する事だが、ある一定の閾値温度を超えるとウエハースみたいに表面剥離が発生したり、内部に気泡の様なコブが発生するので、火加減しながら使用できるユーザーにとってはメリットの大きい素材です。
しかしながら、ストーブにダメージを与えない緩やかな燃焼で満足できる環境と言うのは別の言葉で言い換えると、断熱性能の高い住宅という事になるので居住空間の性能を暖房器具で補うと器具に負担がかかり、結果的に寿命を縮める事につながる。
ステンレスを使用すれば鉄よりも寿命をコントロールできるけど、熱負荷量が多い場所は摩耗が進むことを止める事が出来ないので何らかの対策が必要なのは間違いありません。
顧客から引き揚げたストーブを注意深く観察すると、摩耗の進行が一様に進んでいるのではなく局所的に破壊した部分を除けば驚くほど原型を保っていた。
このことを踏まえ今後の設計を考察すると、破損した部分へ十分な熱対策を行い、その他の部分は現状のアプローチで十二分に製品寿命を保てると確信しました。
今までは想定を元にした設計だったけど、これからは実機ベースの決断なので間違いがありません。
そして過去のデータを踏まえて、摩耗発生個所を改良した新バージョンを今年から納品しているので、5~6年後の検証で今回の答え合わせが判明するでしょう。
このように、未知の製品開発と言うのは良かれと思って考えたことが想定外の結果に行きつく事がデフォルトであり、発生したトラブルに向き合う事で製品の性能が劇的に向上するのだけど、そこまで到達するには時間とアイデアが必須なので簡単ではありません。
ブログでは軽く対応策を実施したと記述しているけど、実際には数か月間に渡り何パターンもの実験を繰り返して最適な改善方法を探索しました。
コンセプトを思いついたと言っても、部品を作る工具を自作してアイデアの検証を行うだけでなく失敗も普通に連発するので直線的な成果を求める精神では非常につらい環境です。
おそらく、このような失敗を前提とした新領域の探索が出来る能力は個人の特性に大きく依存しており実装できる人は少ないと思っています。
私も含め多くの製作者が同じようなアプローチの製品を量産する理由がここにあり、新領域に挑戦するには大きな負荷と沢山の資源投入が必要になるが、現状の改良であれば少しの負荷量で対応できるので新たなアプローチを採用する事に二の足を踏む。
今回の検証では、新規に納品するストーブ以外に過去にお買い上げ頂いたお客様へも製品寿命を延長するアプローチを有償でご提案しています。
この様に、ストーブを販売するだけでなく過去の設計を検証する工程を物作りに活かしているのがヒミエルストーブの強みで有ると改めて認知しました。