蓄熱ストーブのテスト

初めて空積みで実験を行ってから約4か月が経過して製品のプロトタイプが完成しました。
レンガを積み上げるストーブの製作は初めての経験だったので、ここまでの道のりは長く分からない事を一つづつクリアして行く作業の積み重ねだったのでこの日をどれだけ待ちわびていた事でしょう。
昨日積み上げたレンガは水分を含んでおり、急激に温度を上げると目地が一気に収縮してひび割れが発生するので小さな炎で徐々に昇温するように注意しながらの点火を開始。

点火してみると、拍子抜けするくらいきれいな燃焼を継続。

レンガを空積みしていた時は、ドア周りだけでなく装置全体から空気が流入するので流れをしっかりとコントロールする事が出来ず、基本的には薪を沢山詰め込みとにかく炎を大きくする操作を行っていました。
その結果煙が大量に発生し、工場内で連続運転する事が困難なので屋外でしっかりと温めてから室内へ移動する必要があり燃焼の補助にブロアーで空気を押し込む必要が有るなど、製品としての使用には難がある状態。
イマイチな事象が発生するには理由が有る訳で、対策は簡単。根本原因を推測して実証するサイクルをまわすだけなのですが口で言うのは誰でも知っているけど実際にやってみると非常に困難。
特に本体の昇温遅いので1日に1回しか実験を行うことが出来ず、当初の目論見が外れる事も普通にあるので途中からは前に進んでいるのか後退しているのか分からなくなったのも今では楽しい思い出。
目に見える意匠的な部分は何とでもデザイン出来るのだけど、燃焼速度や温度分布の均質化などは躯体設計と空気の速度を微妙に調整する形を本体内部に搭載する必要があるので今の形に収束するまで本当に苦労した。
外観は単なる四角いレンガ積のストーブだけど、内部の上面レンガに付着する煤が焼き切れる高温を実現しつつ長期間使用による部品交換の構造を盛り込んだので結構自信あり。

燃焼室内部に見える炎の雰囲気は舶来ストーブと同じようにきれいな炎を長時間鑑賞できるし、ガラス窓は3時間連続で燃焼しても一切曇らなかった。
ドアは燃焼室の輻射熱でかなり熱くなるので、反り返り防止対策を考えたのも懐かしい。

本体が温まれば煙の発生はごくわずかで、窓を開けていれば気になるレベルでは無かった。
これなら雨が降っていても室内で焚く事ができるし、展示スペースに設置して煙突を屋外に出してもご近所に気を使うことも無いでしょう。

火をつけて3時間後の側面。
全体的にむらなく昇温しているのが良く分かります。 火がきえて放置すると時間の経過と伴にレンガに蓄積された熱が全体的に均質化されて行くのでこれが正解。

ここまで来る到達するには解決すべき課題が多かったけど、ひとまず形になったことが嬉しい。
そしてこのモデルは従来のヒミエルストーブ開発とは少し異なる経緯を経て設計を行いました。
通常は私の中にあるコンセプトをプロダクトにしてお客様へ提供するのですが、今回は京都府美山町で蓄熱ストーブのサウナ施設を営むearthing miyama 長谷川さんの忌憚ないご要望を設計に活かすことが今回の成果に繋がりました。
施設運営者として欲しい機能や特性を具体的に言語化して伝えてくれるだけでなく、彼が運営する施設の改善依頼を受注する過程で私の蓄熱ストーブに関する知見が飛躍的に向上しました。
ですので、この製品は形的にはマーケットインから開発した物と私は考えています。
蓄熱ストーブは外観のすばらしさに目を奪われてしまいがちですが、実のところ燃焼設計がプアーで煤が大量発生するモデルも存在します。
そのような状態をユーザーが気にならなければ全く問題無いのだけど、私の特性として理想的な燃焼を自分で確認できなければ製品を販売することなど出来ないし今回はとても良い感じでテストを終える事が出来たので喜びと安堵が入り混じる結果です。
youtubeショートに燃焼の動画をアップしました。
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