四角いストーブを、今さら作る理由

テストを終えたサウナストーブは今週の金曜日に長野県のサウナ施設へ発送する。分解梱包を済ませ、あとは出荷を待つだけの状態だ。

4月は中頃からゴールデンウィーク前まで予定がびっしり詰まっているので、今週が比較的自由に動ける数少ない時間になる。この隙間を利用して、僕は新作の薪ストーブの設計に取り掛かっている。

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 工場に並ぶ自分の展示品を眺めて気づいてしまった

ある日、ふと工場に並ぶ展示品を改めて眺めてみた。

円形の蓄熱形IC、ロケット燃焼由来の構造、どれも「普通の薪ストーブ」とは一線を画すものばかりだった。

そのとき、ふと気づいた。

四角くて、黒い、ベーシックな薪ストーブが、1台もない。

10年以上、人の真似をすることを避けてオリジナルを追求してきた結果、最もベーシックな形を作ることを完全に失念していたのだ。

オーソドックスなクリーンバーンは2014年に1度試作したのが最後なので12年間作っていない事になる。

僕の嗜好が招いた必然

問い合わせや購入相談をしてくる人の傾向を振り返ってみると、ある傾向がある。

性能やロジックに興味を持って連絡してくる人は確かにいる。ただ、それよりもはるかに多いのが「普通の薪ストーブがありますか?」という問い合わせだ。予算感や設置場所の話になると、多くの人がネットや本で見た「黒くて四角い薪ストーブ」のイメージをそのまま持ってくる。

これはあくまで現時点の仮説だが、世間の9割近くはこの伝統的な形を求めており、残り1割未満が機能や個性にこだわりを持つのではないかと思っている。統計的な検証をしたわけではないが、10年分の問い合わせの肌感覚としては、この比率はそれほど外れていないと感じている。

そして僕は、その「1割」に向けて製品を作り続けてきた。

そう気づいたとき、正直、愕然とした。10年かけて積み上げてきた技術と判断力を、圧倒的多数の市場にはまったく届けられていなかったことになるからだ。

変わった形を作り続けた10年は、財産になっている

誤解のないように書いておく。

手間のかかる変形構造を何度も設計・製作してきたことで、「なぜその形にするのか」を構造レベルで考える習慣が根付いた。

具体的に言えば、燃焼室の容積と板厚のバランス、二次燃焼を安定させるための気流、蓄熱と放熱の設計-こういった判断を、失敗と修正の繰り返しの中で身体で覚えてきた。

この知識は形を選ばない。四角いボディに落とし込んでも、同じロジックは機能する。むしろベーシックな外観の中に、こうした燃焼設計を静かに組み込む方が、より多くの人に届く可能性がある。

新作の設計を始めるとき、僕はいつも大きな紙に実寸を描くことから始める。アイディアの赴くままに構造を書き込んで、納得がいかなければ描き直す。何枚も繰り返していくうちに、アイディアが少しずつ収束していく。

昨日から設計を始めて、1つの問題に行き詰まった。

外気導入の構造をどう組み込むか、だ。

これからの時代、高気密・高断熱住宅(ZEHやHEAT20基準)に対応しようと思えば、ダクトによる外気導入は必須の機能になる。室内の負圧を防ぐために、ストーブが直接外部から空気を取り込む仕組みが必要だからだ。

問題は2つある。

1つ目はスペースの制約だ。本体の下から外気を導入しようとすると、吸気の調整機構を収めるスペースが極端に狭くなる。

既存のダクト部品を転用すれば機構としては作れるが、部品が外観上どうしても目立つ。それを隠すためにはストーブの扉を地面より高い位置に設計しなければならず、僕が実現したい「床に近い重心の低い形」から遠ざかってしまう。

2つ目は操作性との両立だ。外気の吸気量を手元で調整できないと、高気密住宅での運用が難しくなる。調整弁をどこに、どんな形で配置するかが、外観と機能の両方に直結する。

昨日1日、この2つの制約を前に頭を抱えた。

こういうとき、僕には決まった対処法がある。

無理に考え続けない、だ。

散歩したり、お風呂に入ったりして頭の中を一旦空っぽにする。すると何かのタイミングで、ふっとアイディアが浮かんでくる。

今回は夕食後に試してみたいコンセプトが浮かんだ。

具体的な構造は模型を作って検証してからでないと詳細まで思い描くことは出来ないけど、方向性としては既製部品への依存を減らし、ボディの一部として一体的に設計するアプローチになる。

今日、その模型を作って実証実験を行う。

出来上がってみると、たぶん「当たり前の形」になる

形がないところから手を動かして答えを探すプロセスは、苦しい。でも出来上がってみると「なんだ、こういうことか」と拍子抜けするくらい当たり前の形に落ち着くことが多い。

ストーンバッテリーもそうだった。スタート地点では複雑に考えてしまう構造も、必然性を積み上げていくと、最終的にはシンプルな形に収束する。

個人的には、真っ白な紙の上に描く下書きが実際のストーブとなって完成するプロセスがとても楽しいと思うし、毎回新たな課題に挑戦するので飽きる事が無い。

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