いつもと異なる光景
前回のブログでも記述しましたが、長野県佐久市でウィスキングが有名なSAUNA TEN – Birch and cloud forest -を営んでいらっしゃるテンさんより「1年でサウナストーブが破損してしまい困っている」と相談を受けました。
正直最初はお話くださった内容を理解する事が出来ませんでした。
なぜなら、薪ストーブを何十台と取り扱い鉄の劣化を散々見てきた私でも1年で致命的なダメージを見たことが無いのと、もしかしてダメージの発生が本当であればメーカーが何らかの対応を行うのが普通と思っていたからだ。
そして、後日破損した実機の写真をシェアして頂くと私が考える常識とはかけ離れた光景でした。
結論から言えば1年で破損してしまうと言うのは本当の話であり、その様な状態が製品のデフォルトなのだと。
そして、写真を目にしてから私の思考回路が一気に動き出したのです。
表面の焼け方、サビの出方、割れた部位、熱の通り方、普通の鉄ではあり得ない現象がいくつも並んでいた。
少なくとも長年私が親しんできた普通鋼板とは全く異なる金属の様相が目に飛び込んできたのです。
ステンレスでもないのに異様に錆びの少ない本体。
そして熱と水による劣化が激しいはずなのに、私の知る劣化の進み方とは異なる形で摩耗が進行している。
今まで利用するタスクが無かったので、このような性格の金属の存在を知りませんでした。
その刹那、この金属の正体を知りたいと言う気持ちに火が付いた。
物作りの世界では、素材の選定がすべてを左右する。寿命、耐久性、熱の伝わり方など、素材や板厚で決定するパラメータは驚くほど大きい。
なので、私は自分の疑問を解決するためこの鉄が何なのかを解明する挑戦を開始した。
技術的な興味だけでなく、好奇心、そして未知なる素材を探索する手法を学ぶテストケースとしてこれ以上の教材は無いであろう。
すべてはここから始まった。
自分でドアをこじ開けろ
最初に向かったのはwebを検索して一般的な資料や文献を探したけど私も含めて市販ストーブの鋼材は公表されておらずどれだけ調べてもこれと言う情報は出てきません。
仕方が無いのでテストピースの準備を行い自分が出来る範囲で鋼材を調べてみる事に。
最初は火花試験。
グラインダーを鉄の破片に当てて、発生する火花で炭素量やステンレスとの判別を行う。
結果はやはり「普通に鉄じゃない」火花の伸び方、色、爆ぜ方が私の良く知っている普通鋼と明らかに違ったのです。
続いて劣化の進行具合、硬さなどを調べても素材を判断する決定的な証拠を見つける事が出来ませんでした。
そして私は材料分析と言う次のステージに進むことを決断。
しかし、ここでも問題が有った。
そもそも、材料分析をどこに相談すれば良いのか?費用と納期など知っている知識は皆無と言うのが正直な回答である。
まずは私の人脈の中で知っていそうな人から片っ端に電話を行い、どこに質問すれば私の疑問解決に近づく事が出来るのか聞いてみると2系統の攻略法が見えてきた。
1)兵庫県工業技術センターに問い合わせて調べてもらう
2)民間の検査機関へ試料を提出して調べてもらう。
1)に比べて2)に必要な費用は民間機関なので3~5倍と言う話を商工会の人に教わったので私の選択は1)に絞られました。
1)の派生で兵庫県物つくり支援センターと言う機関が姫路市に有り、検査機器を借りる事が出来るのそうなのだが操作方法の受講が必須であり今申し込んでも最短が来年という事なので除外。
1)に電話してみると、相談窓口はメールに一本化されているので先ずは相談内容を送信してくださいとアナウンスされたのでこちらの希望を書き出して送信。
しかし、メールがいつ返ってくるか分からないのでどうした物かと考えていると県の技術指導センターに勤める友人の存在を思い出し、相談のつもりで電話を掛けてみると検査の実施が可能だと教えてくれました。
なので、検査機器で金属に含まれる元素の含有量を推定する準備は出来たことになる。
次は、検査で判明した微量元素のデータを元に鋼材の推定を行うタスクを処理しなくてはならない。
どうした物かと考えていると、メール送信した工業技術センターの金属専門家から電話が掛かって来て私の質問内容をさらに深く確認してくれました。
そこで決まった内容は
最初にX線検査機器で金属の元素を測定
その検査結果の数値を工業技術センターの職員に提出して材料の推定を行うと言う2段構えのワークフローを構築。
ここまで費やした時間はわずか1日。
幸運な事に、全く未知の金属を推定する準備をなんの予備知識もなく1日で完了する事が出来たのだ。
ちなみに県の施設に検査を依頼すると費用は1.2万円。民間だとその3倍以上。
そして、さらに精密な測定をしようと思えば20万円以上費やすそうだ。
テスト自体にもこちらの目的に応じてアプローチが異なってくるので、自分の目的を明確にしてそれを解決する方法を探索しないと時間だけでなく費用も無駄になるので注意が必要だ。
まとめ
今回は未知の金属を推定する方法を探索する記事を書きました。
朝の始業時には全く知識が無い所からスタートしたのに、夕方には解決への道筋をつける事が出来た事にびっくり。
最初から出口なんて見えないけど、知り合いの力を借りまくって何とか前に進むことが出来たのが嬉しいしある意味少しの狂気を内包しなければ考えるばかりで前に進む事すら出来なかったでしょう。
今回の行動が思い通りの結果にならないとしても、未知の素材を探索する手法を知っただけも大きな収穫だと思っている。

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