アイデア勝負のお仕事
恥ずかしながら若い頃の私は、上司から仕事を指示されても出来ない理由を探すばっかりで、自ら進んで問題解決をする様な思考を持っていませんでした。
しかし、30代で起業したので、そんな消極的な姿勢では生き残って行く事が出来る訳も無く、若い頃ズボラこいていた事を後悔しながら日夜仕事に没頭していました。
そんな事を10年以上繰り返し、仕事以外のインプットを積極的に継続したのが良かったのか、近頃は良いアイデアを思いつく場面が増えて来ました。
機械修理編
とある朝一番に、大型機械の動力をつなぐ部品が折れてしまったので修理して欲しいと依頼されました。
長さは4Mくらい、直径40mm位の丸棒で、途中長さを調整出来る様にネジを切っています。
装置動作中は駆動力を伝達する丸棒が常に揺れて長さ調整部分のネジに横方向のストレスが掛かり、そこから疲労破断を起こしたのです。
壊れたパーツを何とか修理して、一刻も早く機械装置を動かしたいと言う要望を聞きましたが、いかんせん予備部品が有りませんでした。
2日ほど停止時間を作る事ができるのなら、破断部分を切り取って設計した部品を削り出しで作り、溶接で部品をつなぐのですが今回はそんな時間は有りません。
メーカーに問い合わせても、部品が無いから仕方ないと寂しい返答でした。
部品交換や切削加工など、普通に修理が不可能な状況からその日のお仕事はスタートしたのです。
こんな時は、頭の中で幾つかの選択肢を思い浮かべながら、状況を確認する中で候補を消去して行きます。
手元に用意出来た部品と言えば、折れたM30のネジと同じ外径のキャップスクリュー1個。
壊れた部分をカットして、削り出しと同じ強度、同心でくみ上げる事に心を決めておもむろに仕事に着手しました。
今回は手持ちの部品が無い中で、とにかく早期の普及、そして恒久的な耐久性を求められたので無意識に一番シンプルな方法が良いと感じたのです。
3つの課題
作業を成功に導く上で3つの問題を解決しなければなりませんでした。
- シャフトΦ40とキャップスクリューの直径Φ46が異なる状況で、手作業でセンターを合わせなければならない
- シャフトとネジをまっすぐ溶接しなければならない
- 修理完了後、新品部品が出来上がるまで数ヶ月絶対に壊れてはいけない
思いついた解決方法
(1)の解決は、半径差分のシムを作り擬似的に同径に揃える事で棒の中心を捉えました
(2)の解決は、直径を揃えた材料をハンドバイスで固定することで溶接によるヒズミを防止し、シャフトを立てて溶接する事により自重での変位を押さえました。
(3)の解決は、絶対的な保証は出来ないけれど、手持ちの溶接棒で最高強度の棒を使う事で対応しました。
結果
コンマ代の寸法は狂いましたが、狙った仕上げを作り出す事が出来ました。
修理完了後、早速機械装置に設置してその後問題無く稼働しているので狙いは成功したと言えるでしょう。
まとめ
こんな感じで、メーカーですら手を出さない修理が私の主力業務です。
マニュアルに無い、非定常業務なので理論立てて人に説明も出来ず、後になって振り返っても何故自分がそのような判断をしたのか分からない事が多いです。
修理方法の選択に悩んだとしても、相談出来る人は誰もいなくて、頭の中で仮説と検証がぐるぐると駆け回ります。
プレシャーが掛かる場面でパフォーマンスを発揮するには、実力よりも精神的な物が大切なのではと考える様になりました。
解決が見つからなかったり、仮説が間違いで一からやり直しが必要など、状況が困難であれば有るほど消極的な気持ちになると、身体までしんどくなって気持ちばかり焦ってしまい、たとえ目の前にヒントがあったとしても見落としてしまいます。
なので、重圧が掛かる状態でも落ち着いて「俺は絶対に出来る」と自己暗示できる心のコントロールがかなり重要では無いかと個人的に思っているのです。