ぶっ壊れた金型の修理
今週は機械にセットして金太郎飴のように、丸い鉄の棒をギロチンで切って行く金型の修理をしました。
自動運転中に金型の部品が割れ、砕けた部品の一部で金型本体を加圧してしまったので、ギロチン部分を支える本体が約0.2mm曲がってしまっているという絶望的な状態です。
たった0.2mmと考える方もいらっしゃるかと思いますが、ギロチン部分はかなり精密に出来ていて、隙間が少ないほど製品の外観が良くなるし、ギロチンが上下運動する部分は合金製で水平直角が機械加工で完璧に仕上がっていなくてはダメなんです。
メーカーに新品をオーダーすると1セットでレクサスGS1台分のお値段。
普通に考えると新品に買い換えるしか手段は無いのですが、そこは昭和の職人である私がダメ元で修理にトライしてみたお話しです。
曲がって凹んだ金型の肉盛修理
砕けた部品で金型ボディーの一部分が凹んでいたので、溶接で肉盛した後水平を手作業で出して行きます。
使用する道具は定盤と光明丹とダイヤモンドやすり、そして仕上げ砥石をセットしたサンダーのみ。
肉盛した箇所に光明丹を塗り、定盤を使って高い部分を検出して、削って行くだけ。
凄くシンプルだけど、削りすぎると後戻り出来ないので慎重に少しずつ平面を手作業で仕上げます。
本体外側は比較的簡単に平面を出せるのですが、ギロチンを支える柱が微妙にゆがんでいる状態で使える様にするのが難しかった!
曲がっているのでギロチンの上下部分が狭くなって動かない
ギロチンが上下する合金をセットし、ギロチンを上下に動かしながら動きが硬くなる部分を検出し本当に少しづつ削って行く。
僕らの業界じゃ当たりを取るって言いますが、全てを組み込み完成形でしっかりと機能するように部品を加工しなくちゃいけないから、頼りになるのは勘と経験だけの世界です。
数日を掛けて金型単体でのギロチンが作動するまで金型を組み付ける事に成功し、後は本体にセットしての確認作業です。
スクラップの金型が蘇るのか、緊張が走ります。
実機テストでのトラブル
金型を修理してから約1年後に実機に搭載してテストを行いました。
結果は・・・・
動かない!(涙)
金型単品では問題無く動くのに、機械装置にセットすると動かなくなるのです。
原因を探って行くと、機械装置に固定する為に油圧ジャッキで挟むとギロチンが動かなくなる事が分かりました。
これって・・・・本体がゆがんでいるじゃ無いの。 OH NO-!! てな感じです。
しっかりと修理するには、本体のゆがみを考慮し、クランプしてギロチンの隙間が丁度良い状態になるように組まなくてはなりません。
そんな神様みたいな事出来るのかと不安になっていましたが、ここまで来て止める訳にも行かないから、作業場へ金型を引き上げてバラす途中で、運動部分の摩耗や傷、微妙な油膜の厚み等をチェックして、洗浄の後研磨して行きました。
機械装置に挟み込んだ状態で正常に動かす為には、動作部分に発生した微かな傷を頼りにマイクロメーターで厚みを測定した後慎重に削り込んで行きました。研磨が必要であろう部分を頭の中にイメージして、どの位干渉を除去すれば良くなるのかは何となくの感覚として言いようがありません。
まとめ
研磨を繰り返し、トータルで0.1mmほど隙間を多く作って再度金型を組み直して実験です。
今回失敗すれば、また1からやり直しです。ほんと機械のすりあわせって地味で難しい仕事です。
そして、機械にセットして鉄棒を自動切断して行くと結果は
成功。
いやー良かった良かった。
一時はどうなることかテンパッテいたけど、結果オーライって事で。
この様な修理はマニュアルや参考資料なんか一切無くて、自分のイメージと経験だけが頼りの業務です。
技術だけで無く、背中にのしかかってくるプレッシャーもコントロールしなくちゃいけないので一朝一夕にできる物では無いですが、後に続く技術者が育っていないのが寂しいですね。